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ミサ/レクイエムの式次第 奉納の儀


B-1. 奉納の儀

 この「奉納の儀」から、ミサの最も重要な本体である「ユーカリスト」の部分に入ります。今までの段階はいわば準備段階であって、初代教会ではこの部分までを求道者のミサとして、洗礼を受けていない者にも出席を許していました。
 まずパン(実際にはホスチアと呼ばれる、まじりけのない小麦粉だけで作られたせんべいのようなもの)とぶどう酒が祭壇に奉納され、聖変化の祈りによってそれがキリストの体と血に変えられます。そしてそのパンとぶどう酒に預かることによって、キリストはミサに集まった信者一同とともにあり、また信者のひとりひとりもキリストの体に結ばれて時間と空間、生死さえも超越した共同体の交わりに入れられることを確認する式です。それはキリストの「最後の晩餐」の再現であり、ユダヤ教が数千年来伝えてきた「過ぎ越し」の祭りの儀式的食事を引き継ぐものであり、古代の宗教でいけにえの動物を祭壇にささげて罪の許しと和解を神に祈った犠牲の奉献になぞらえた儀式でもあり、またすべての信徒が集められてキリストと共に宴席につく天上のうたげの予表でもあります。したがって象徴が豊かに用いられ、神学的・教理的にも奥深い意味が込められています。
 しかし実際には、改革前のローマ典礼においては司祭が一人でラテン語の長い祈りを唱え続けるだけで、一般の信徒はほとんど何が行われているか理解しがたい状況でした。そこで祈りの中の特に重要な箇所でベルを鳴らしたり、司祭が十字を切ったりひざまずいたりして、動作で祈りの内容を伝えようとしましたが、その結果はますます儀式化するばかりで、一般信徒はミサから縁遠くなるばかりでした。
 けれどもそのような旧典礼の中で、ミサと信者を結びつける唯一のきずなといえばそれは音楽でした。「ミサを拝聴する」といった表現が一般的になり、作曲家もミサの本儀を伝えようと全力を尽くしたのです。以下、「聖歌隊が歌っている間に司祭が唱える」というような箇所が度々出てくるのはそのためです。

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