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shop atmosphere
イリオさんと共に(ピッティモザイチにて)
 私達がフィレンツェを訪問したのは、1996 年 9 月下旬の週末。日本と違い、土日は多くのお店が閉ってしまうのが、ヨーロッパの習慣。ウィンドウ越しで、フィレンツェ風モザイク工芸の素晴らしさを眺めるしかない。実際、お土産物として、ドォーモやフィレンツェの町並みをあしらったものが、ところどころの店先にも展示されている。土曜に、いくつかのお店を回ったが、なぜか閉店していたピッティ・モザイチの展示の様子が、単に伝統と観光だけではない、何か垢抜けた主張を私達に訴えている感じがした。
 美術館めぐりで、フィレンツェ風モザイクに魅了された私達は、もう一度、ピッティモザイチの展示を見たくて、翌日にも、ピッティ宮殿前のお店を訪れたところ、なんと、日曜にもかかわらず開店している!
 思わずドアを開けて、入ったら、明るい表情で英語の上手な女性と活気あふれる男性が出迎えてくれた。この男性が、イリオ・デ・フィリッピスさんであった。奥に向って長い店舗の壁両面には、額に入った沢山のモザイク画が掛かっている。ドォーモのようなお土産にふさわしいものもあるが、奥の方には、素晴らしい作品がいくつもあった。苦悩するキリストをモチーフとした画。草花の微妙な色調の変化を表現した作品。
 一つ一つに見とれていると、イリオさんが、いろいろ説明してくれる。それを聞きながら、モザイクの素晴らしさに感じ入って、その1品でも日本に買って帰りたいと思っていたら、もう午後1時。我に帰って、気が付くと、どうやら、お店が開いていたのは、通常の営業のためではないらしいことが判ってきた。何かの都合で開店した時に、私達が入り込んだようだ。あわてて、素敵な花を表現した1品を求めて、お別れした。
 会話の中で、イリオさんの奥さんが、日本人ということも判った。親切にしてくれたのは、そのためかしれない。きっと、日本からのお客さんも多いに違いない。
 翌年の新年には、日本語での葉書がイリオさんから届いた。


showroom
ピッティ・モザイチのショウルーム

 イリオさんは、新しいモザイク工芸の美を求める人でもある。それも、世界を視野に入れて。上のショウルームにあるような、テーブルなどの調度品も、伝統の技と現代人にふさわしい新しい感性が組み合わさった作品と言える。イリオさん自身は、新しいことにも意欲的で、イタリアでは、まだこれからという感のあったインターネットもいち早く利用。ホームページも開設して、その活動を世界に発信している。また、親日家のためか、東京の文化服装学院の新校舎のデコレーションを担当したり、大阪のレストランのインテリアを製作したりといった活動もしている。



 そのイリオさんのところに、突然のような形で、1年ぶりでお邪魔したのは 1997 年の11 月。ウィンドウ越しでお店の様子を眺めると、それまでショウルームだったところに荷物なども多く置かれ、イリオさん自身、忙しそうに誰かと打合せをしていた。
 仕事の話を終えたの見計らって、中に入り、「お久しぶりです。去年、お世話になった...」と述べ、私は今回イタリア中小企業の魅力を取材にフィレンツェ近郊をあちこち回っていると説明すると、イリオさんも、話に乗ってくれた。その、イリオさんは、「自分達は美しいものを創り出すために、日々、非常に努力している。メリルリンチのようなところが、私達の成功の理由を知りたいために、インタビューに来たりもしている。しかし、そのような大企業が、私達の良さをそのまま真似できるとは思えない。」と、イタリアの人達の美への探究心、個々人としての頑張りとその尊重などのことを語ってくれた。イリオさんの熱意には、日本での伝統工芸を極める人達にも合い通じるようなひたむきな強さを感じた。

 イリオさんは、お店/工房の業態も新しいものに一新するので、今、大変に忙しいとのことであった。また、私からは、お邪魔してしまったようである。
Ilio
さらなる飛躍を目指すイリオさん
Arrivederci Sinore Ilio de Filippis. Tanti auguri!!

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Eメールアドレス:leonard@prmvr.otsu.shiga.jp

(1997.6.28 初版、1998.05.09 改訂)


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