第2部 Symbolum Nicenum
2-1. Credo in umun Deum
【編成】 5部合唱、
ヴァイオリン2部、通奏低音
(筆者注:本来無伴奏合唱ではないかとの説もある)
【調性、拍子】 イ長調、4/2
【作曲経緯】 筆跡等から書下ろしであることは確認されている。
テーマはグレゴリオ聖歌のクレドから採られている。グレゴリオ聖歌には18組のミサがあるが、そのうちの第1番のミサのクレド。旋律は、ソ(Cre)−ミ(do)−ファ(in)−レ(u)−ミ(num)−ソ(De)−ラ(um)。グレゴリア聖歌では「教会旋法」といわれる後世の音階に近いものが8種類あり、そのうちのミュクソリディア調(第7旋法)と呼ばれる、ソの音から始まる音階に乗ったメロディーである。このクレドの旋律はプロテスタントの聖歌にも取り入れられており、カトリックとプロテスタントの融合を目指したバッハの意図に相応しいと言われている。
なお、余談であるが、モーツァルトのミサ・ブレヴィスのように、先唱といって、'Credo in unum Deum' が男声のソリストで歌われるミサ曲の演奏では、ヴォーチェの第3回演奏会で河野さんが歌われた、グレゴリオ聖歌の第3番のミサのクレド、ソ(Cre)−ミ(do)−ド(in)−ファ(u)−ミ(num)−ミ(De)−レ(-)−ド(um)とともに、このクレドの旋律がよく用いられている。
もっと余談であるが、教会旋法は後に4種類が増えて12種類あり、普通我々が使っている長調の音階が第11旋法(イオニア調)、短調が第9旋法(エオリア調)となっている。
【評価等】 カトリックとの連続性をとりわけ強く意識させる曲。
「われは信ず、唯一なる神」という歌詞を、古様式、つまり擬古的な声楽ポリフォニーで歌っていく。また、グレゴリオ聖歌の旋律をテーマとして対位法を展開しているところから定旋律の技法が取り入れられているといわれている。
グレゴリオ聖歌からルター派に受容された伝統的なクレドの聖歌旋律はまずテノールで示され、バス、アルト、ソプラノ I、ソプラノ II、そしてさらにヴァイオリン I、ヴァイオリン II の順に模倣され、合計7声のポリフォニーの綾を織るが、通奏低音のみはひとり4部音符による上下音階を刻み続けるのである。
シュヴァイツァーは演奏に関して具体的な提言をして入る。
「8分音符のしっかりした、不屈の運動は信仰の堅さを象徴する。これらの音符にスラーをかけないで、一つ一つ離し、アウフタクトの音の次にまとめるように奏すると、最もよい効果が得られる。
テンポはあまり遅くしてはいけない。あまり遅いと曲の終わりの、全曲のクライマックスになるところで、バス声部で歌われる上記の主題の拡大が、それとして受け取られなくなるからである。」