第1部 Missa
1-7. Gratias Agimus
【編成】 4部合唱、
トランペット3、ティンパニー、フルートトラヴェルソ2、オーボエ2、ファゴット、弦楽、通奏低音
【調性、拍子】 アラ・ブレーヴェ、ニ長調、4/2
【作曲経緯】 パロディであることがはっきりしている。1731年初演の市参事会員交代式のためのカンタータ《Wir danken dir, Gott [神よ、われら汝に感謝す]》(BWV29)のシンフォニアに続く冒頭合唱の転用。
バッハはアラ・ブレーヴェの擬古的な記譜法を採用したほかは、ほとんど原曲をそのまま用いている。(筆者注:原曲は2/2拍子《2に縦棒の入った拍子記号》、Gratiasは4/2拍子《Cに縦棒の入った拍子記号》で、2拍毎に短い小節線が入っている。即ち、原曲の2小節が転用後の1小節になっている。) 
【評価等】 古様式による4声のモテット風合唱曲。ひたすら模倣を積み重ね、やがて大きなクライマックスを築く。器楽は、初めは弦と木管、そして高揚とともにトランペットやティンパニーが加わり、壮麗な響きの中に締めくくられる。
シュヴァイツァーは以下のように多くを割いている。
「二つの類似の主題の拍子の間に抗争が見出される。初めの歌詞の内容は驚くべく快活で安らかな主題で表されている。その続き―propte magnam gloriam tuam―のために、もっと生き生きした効果を出すように考えられた主題が入る。バッハはこの両者の個性の違いは非常に大きいと思ったものと見え、この後の合唱の諸段落でこの両者を組み合わせることはせず、時には前者、時には後者のモティーフを基礎にした部分を順々にならべて、この曲を作り上げた。従ってこの曲の魅力は各段落それぞれに適当な速さを与え、しかも全体のテンポの統一を破らないようにするという演奏上の難問題の解決によって発揮せられる。」
【筆者注】 この曲はバッハのパロディーの典型的な物としてよく論じられている。即ち、歌詞の内容が酷似しているものを引用している例で、音楽および内容表出がほとんどそのまま取り入れられている。
《原曲(ドイツ語)》Wir danken dir, Gott =神よ、我ら汝に感謝する
《ミサ(ラテン語)》gratias agimus tibi =我ら汝に感謝する
また、この曲もオーケストラが合唱のいずれかの声部に重なってくるコラ・パルテ様式となっており、フルートトラヴェルソ氈Aとオーボエ氈Aヴァイオリン氓ェソプラノ、オーボエとヴァイオリンがアルト、ヴィオラがテノール、ファゴットと通奏低音がベースと言う関係で、時々ソプラノの主題にトランペットが重なってくる。