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11 時より(馬)車に乗って、「サンタマリヤ」寺院に行った。この寺院は 1200 年、ローマ(カトリック)教が全ヨーロッパに広まり、民衆から財を集めた盛時に、創建された。造営工事に 400 年の歳月を経て落成に至った。この寺院の構えは、南に向かって大ドーム(クーポラ)、右に四角の高い塔がある。中間に高いビルを建ててつなげている。ビルの中は、一つの巨大な講堂となっており、大ドームの下につながっている。このドームの下をもって、祭壇としている。
現代の「サンタマリヤ」寺院
(=サンタ・マリア・デル・フィオーレ)
ドームの高さは、460 フィートで、弓なりになってそびえている。上に円形のランターンをいただき、ここより明りを堂内に導いている。ランターンの円塔上には金色の宝球を建てている。この宝球は中空で、大きさは6人が入るほどのものである。このドームの下に立つと、身もひきしまるような大ドームであり、仰ぎ見ると目もくらむ。背の高い大きな人でも、聖堂の傍らに立つのを見ると、その小ささは、あたかも、セミが老木にすがっているようなものである。ドームの下よりビルにつらなり、すべて、床には、黒白の四角い石を交互に敷き詰めている。いずれの面も摩耗が激しく、歩めば足をとられそうである。この聖堂の全景は;祭壇の周囲に鉄柵を廻らせていて、その高さは 3 m余であるが、これを見ると、低い柵のようだ。近づいて見れば、目を挙げて、その先をみると良い。ドームの壁、三面に大きな穹壇を設けている。いわゆるアーチというものである。それぞれの壇には、また分かれた穹壇がある。この支アーチの高さも聖堂の半分にも及ぶものである。これを普通の寺院のアーチに比べれば、高く大きな壇である。各支穹壇を分けて5つのアーチを造って小支壇としている。一小支アーチといっても、なお、30 mの高さはある。全体で 15 の小支壇があり、ここにみな神壇を飾っている。これが、ドームの下の概要である。この前にある広い建物は、幅 140 フィートで、中に大きな柱を平行に並べ、十字アーチの方法で上部を重ね合せている。1つの柱の基部は一辺 4.5 mにもなっている。小さなものでも 3 mはある。この寺院の広大さは、かくのばかりである。ヨーロッパにおいて、屈指の大寺院と言われているが、ローマのセント・ピエトル寺院に比べれば、なお、その半分でしかない、と言われている。
大聖堂より、一区画をはさんで、六角堂がある。これも、普通の家屋に比べれば、高く大きな堂ではあるが、大聖堂のそばにあると、あたかも1つの小さな建物に見えてしまう。六角の各面は 13.5 mもあるという。みな、銅のドアをもって、扉としている。そのドアの表面には、みな、旧約(聖)書の図を描いて、レリーフ状に鋳出している。その彫金の紋様が精工である結果、ヨーロッパ各国の彫金工が、これを模倣して範を取っているところとなっている。この堂は、(キリスト)教徒の洗礼を行う場所で、昔よりいろいろの故事がある有名な堂と言われている。
博物館(ウフィツィ美術館)は、アルノ河の第二番めの橋の北岸に構えをもつ4階建ての優れたビルで、中に一つの街区を抱えて、気宇壮大な造りとなっている。この街区の上には空中構造の建物を造って、両方のビルをつなげており、階上において、周回することができる。このビルの南側にある口には、白い石の円柱でもって、十字アーチ法で重なり合った、中の空いている建物がある。この中には、古い大理石像が3つ、また男の神が魔女の首を斬って立っている銅像(ペルセウス)、その他の石像が十いくつかある。いずれもみな、その彫刻の精巧な古いものであり、各国の美術学者が、みな遠くより来て、その手法を調べ、模造し珍重しているギリシア時代の彫像である。これまで、各国訪問毎に、何回も、これらの模造を見たので、今、この地において、その本物を見たことで、誠に愛しみ重んじる気持を覚えた。およそ、イタリーは、美術の発現地で、現代に残る古い石の彫刻や絵画の類は、みな、この国の逸物である。2000 年前の遺跡に残る一つの片割れでも、世に珍重されている。また、各国に設けられている美術館、博物館に収集されている、有名な彫像や絵画の多くは、その模造であり、ここ(イタリー)に、本物を保存しているので、この国を訪ねて見ると、まさに目をこするような感動を覚える状態である。
本文で説明されているように写真中央の建物内に
銅像、石像が陳列されている
(1996.9)
左のビルの上には前に長い廊下があり、石像を陳列している。この廊下の反対側には、部屋を分けて、新旧の美術品を集めている。西洋各国の画家は、千里もいとわず来訪し、その技を磨く。また、各国の画家は、人生を賭した筆の力で、一枚の画を描き、この美術館に送って、その名を四方に広めている。この両方が、ここを不朽の場所にする結果となっている。男女の画家が、毎日集い、模写する者は部屋部屋に満ちている、世界に名高い美術館である。
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