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日本物産の市内の店に行った。各国にも、往々に日本の物産を販売する店はあるが、粗悪粗野の品であったりする。しかし、この店は精美なものを集めている。漆器、陶器、銅器、象嵌、七宝、扇、象牙の細工から、錦絵の類にまで至っている。各店の間にあっても、はばかるところはないと感じた。ただ、イタリー人は、その器用さは、日本人に似て、よく精密な工芸をなすことができる。できばえが、精細であるのに反して価格は安い。中国や日本の工芸品は、手の技に長じており、その形、容貌は絵のようで、風雅豊かで、ヨーロッパ人の作品にはない、別の境地のものを開き示しているので、ことさらヨーロッパ人の嗜好に合いやすいとは言うものの、その価格は往々にして安くはないと言わざるをえない。
午後から馬車で、陶器製造工場に行った。この工場は、(フィレンツェ)市より3マイルばかり南にある。富豪の某氏が、自前で建てた製造工場で、職人は日に 325 人を入れ、その給料は日毎に平均 2000 ドルを払うという。
イタリー国の陶器は、ローマの時代から起こっている。後世、白磁の技法を発明し、ヨーロッパの陶器製造において最も古い(歴史をもつ)。現代において、イタリー陶器のほこるは、風流風雅なところにある。その様は、黄色藍色の顔料を瓷油(うわぐすり?)に混ぜ、古風な画を描いて、焼き付けたもので、わが京都の粟田口焼を彷彿とさせる。その他、純白の瓷油(うわぐすり?)を発明し、いうまでもなく、種々の品形を焼上げているが、ローマ風の陶器は、その古雅なことをもって、ことのほか各国にて賞美されている。このようにイタリー製陶器は高名である。
この工場においては、古風のものもモダンなものも共に製作している。純白色の陶器を製造するには「カオリン」石を英国より仕入れ、その石を粉末にしている。水に調合する機械も、また英国の「ストックトン」にて発明されたものを用いている。その他、製作の大半は、イギリス、フランス、プロシアにて見たところと、変わるところはない。火を入れて焼成すること、50 時間を限度としているという。
焼き付けの窯は、去年の発明ということで、二つの経路のある火管を窯内に通し、火気をその管中に送り、窯内の空気を乾燥させ、炭の煙に触れさせることなく、焼き付ける仕掛けとしている。この方式は、各国の陶器製造工場で、いまだ見たところはない。ヨーロッパを回って、陶器製造を見たのは、イギリス、フランス、プロシアとこの街の4ケ所で、みな、ある一種の誇りを持っている。この外に、ザクセン国「ドレスデン」の「マイッセン」陶は、最も名高い名品である。ロシア国ピョートルホルク焼、ベルギー焼、オランダ焼、スウェーデン焼、スイス焼など、各国においても、それぞれ伎倆を出している。陶器の需要は、年々に増加して、ガラスと並び利用され、日用品の消耗は、ますます莫大なる量となっている。精巧な品に至っては、ベルリンの人の言うことには、「ヨーロッパの陶器は、顔料や画模様に美を競って、彩色を華麗にしてはいるが、その質はまだ熔化が不十分な土器であって、持ち上げるほどのものではない。真の陶磁器の質を持っているのは、中国、日本において作られるものに限る。これを論じないで、ただ、容貌の美しさに幻惑されているのは、まだ、陶磁器を知らないものである。」と。これが、東洋の陶磁器がヨーロッパにおいて貴ばれる理由であるが、ヨーロッパにおいても、この品を焼成できないわけではない。職工の給料が高く、従って価格が安くなく、需要も少ないため、多く製造しないだけである。
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