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ヘンデルの作品


 音楽作品の内容を言葉で伝えることは不可能ですが、今回はヘンデルがどういうジャンルの曲を書いたかという、言わば外面的な情報によって、少しでもヘンデルの創作活動に関してイメージを持っていただけるように書いて見たいと思います。もちろん、すべての作品が残っているわけでもないので、現在知られている作品について「クラシック音楽作品名辞典」(1981年三省堂)(以下「作品名辞典」と略記)に基づいて概略を記します。

1.作品番号と作品量
 バッハの作品はBWV(Bach-Werke-Verzeichnis)という番号でジャンル別に整理されており、この番号がかなり浸透しています。一方、ヘンデルの作品も同じようにHWVという番号で整理されていますが、これは1978年以降整理が行われたもので、バッハのBWVほどには浸透していないのが実情です。
 作品番号で見るとバッハは1120番まで、ヘンデルは610番まであり、これだけ見るとバッハが2倍の量を作曲したようにも見えますが、作品番号で1曲として扱われている作品にどれだけの量が含まれているかで実質的な量は変わってきます。従って、どちらが多いかといった比較をしてみてもあまり意味はないと思いますが、いずれにしてもバッハやヘンデルが活躍したバロック時代の作曲家はいずれも多作家で、この二人の他でもヴィヴァルディ、テレマンやスカルラッティ等も相当な量の作品を残しています。
 なお、ヘンデルが生きた時代でも、まとまって出版された作品には作品番号が付されており、ヘンデルの場合は7番まであります。


2.声楽作品
 声楽曲に分類されるものとして、〈オペラ〉、〈オラトリオ〉、〈教会音楽〉、〈受難曲〉、〈世俗カンタータ〉、〈合唱曲〉、〈独唱曲〉、〈重唱曲〉と多岐に渡っています。

(1) オペラ
 〈オペラ〉は1741年まで、精力的に作曲したわけですが、その数36曲といわれています。この36曲という数ですが、一人の作曲家が作曲したオペラの数としてはトップクラスのようです。「作品名辞典」で多そうな人を調べてみたのですが、モーツァルトが21曲、ヴェルディが28曲、ワーグナーが楽劇を含めて14曲、プッチーニが11曲でいずれもヘンデルには及びません。そこで同時代人を調べてみると、ラモーが結構書いていて、オペラバレーを含めると31曲が挙がっています。やはりバロック期の作曲家は多作家だったということのようです。
 初期にドイツ語の作品がありますが、それ以降は、活躍したのはロンドンにもかかわらずオペラの言葉は殆どがイタリア語で、まれに英語のものがあります。ヘンデルがロンドンのオペラ界で活躍したのは、ヘンデルの音楽自体がイギリス人の好みを反映していたのはもちろんでしょうが、当時の聴衆は、誰が主役を歌うか、特に人気のカストラート歌手が歌うかどうかで客の入りは大いに違ったといわれており、ヘンデルはこのような歌手たちに恵まれていたということもいえるようです。もっとも色々いざこざもあったようですが。

(2) オラトリオ
 オラトリオは我々が歌っている〈メサイア〉が属するジャンルですので、別の機会にもう少し細かく紹介したいと思いますが、「作品名辞典」では22曲が挙げられています。
 最初のものは1708年に書かれたイタリア語作品「復活」ですが、このころは活動の中心がオペラで、その後暫くオラトリオ作品は残っていません。次に登場するのは1736年の「アレキサンダーの饗宴」で、この頃から毎年のように作曲され、「メサイア」は1742年の作品です。最後の作品は死の2年前の1757年に書かれた「時と心理の勝利」となっています。
 題材としては、旧約聖書からとられているものが多くなっていますが、そのほかにはギリシャ神話やアレキサンダー大王などが題材になっていて、イタリア語作品もありますが、作曲された時期、作曲事情から英語の作品が多くなっています。

(3) 受難曲
 1704年の「ヨハネ福音書による受難曲」、1716年または1717年の「世のために苦しみ死にたまいしイエス(ブロッケス受難曲)」の2曲が残っています。
 受難節の礼拝のために書かれたバッハの受難曲と異なり、むしろオペラ的な色彩が濃いといわれています。音楽の題材として受難が取り上げられたという形のため、受難曲となったと考えた方が良いのかもしれません。「ブロッケス受難曲」は以前から国内でも LP や CD が発売されていて筆者も購入はしたのですが、まだ紹介できるほど聞き込んでいません。

(4) 教会音楽
 ヘンデルの主たる音楽活動はオペラなどの劇場でのエンターティンメント作品だったのですが、当時のことですから宮廷との関係も深く、皇室の冠婚葬祭等に関連して教会で演奏するための曲もあり、「作品名辞典」では30曲ほどが挙げられています。筆者の聞いた範囲ではなかなか華やかな聴き応えのある曲が多いように思います。
 作曲動機としては、戦勝記念、国王の戴冠式、皇族の結婚式、同じく皇族の葬送等です。これらの曲には、「‥‥のアンセム」という曲名がついているものが多くなっていますが、「アンセム」というのは英国国教会で歌われる賛美歌のようなものです。また、「…のテ・デウム」とう曲名もかなりあります。「テ・デウム(Te Deum)」というのは、カトリックの伝統的な典礼文にある「主を讃える歌」ですが、英国国教会やギリシャ正教会でも事あるたびに歌われたようです。
 最近では、エリザベス女王の即位50年の祝典、チャールズ皇太子の結婚式、ダイアナ妃の葬儀など、ウェストミンスター大聖堂での典礼をテレビで見られた方も多いと思いますが、ヘンデルの時代もああいう雰囲気だったのでしょうから、そのなかでヘンデルの華やかな音楽が流れるのを想像すると壮麗な雰囲気が目に浮かぶのではないでしょうか。

(5) 世俗カンタータ
 初期のイタリア語作品を中心に30曲ほどが残っています。内容については省略しますが、中で面白いのが、「ヘンデルは、私の詩ではとても」というヘンデルをたたえる詩に作曲したものでしょう。また、1730年代に音楽の守護神、聖チェチーリアをたたえる4部作があります。

(6) 合唱曲
 今まであげた以外の合唱曲ということになりますが、10曲ほどが挙がっています。その中で比較的有名なのは「ヘラクレスの選抜」という1751年に書かれた曲ではないでしょうか。これはオラトリオ「アレクサンダーの饗宴」の再演のために追加された曲です。

(7) 独唱曲
 ごく初期のころ(1698年頃)の三つのドイツ語歌曲、1707年頃、即ちイタリアで活躍した頃に書かれた72のイタリア語ソロ・カンタータ、同じ頃書かれた七つのフランス語歌曲、1731年に書かれた英語歌曲集(24曲)など100曲を少し超える独唱曲があります。言葉も多岐にわたり、テーマも色々なので一言で論評するのは今の段階では差し控えます。

(8) 重唱曲
 30曲ほどが残っていますが、大部分はイタリア時代に書かれた作品です。


3.器楽作品
 いわゆる器楽作品に分類される作品としては、〈管弦楽曲〉、〈協奏曲〉、〈室内楽曲〉、〈チェンバロ曲〉があります。
 〈管弦楽曲〉の代表作品は、組曲〈水上の音楽〉、組曲〈王宮の花火の音楽〉で、日本でもヘンデルの作品としては最もよく知られている曲でしょう。
 〈水上の音楽〉は、1715〜1717年に作曲され、1717年にその一部がテームズ川上で初演されたという記録が残っています。第1回の時にも書きましたように、ハノーファーの宮廷作曲家として任命されながら仕事を放り出してイギリスに渡ったヘンデルが、ハノーファー公がたまたまイギリス国王に就任した際に、不義理をした気まずさを紛らわすために作曲したという説がありましたが、現在では否定されています。
 〈王宮の花火の音楽〉も第1回で書きましたが、1748年に集結したオーストリア継承戦争の祝賀行事が1749年に行われた際の祝典用音楽です。ロンドンのグリーンパークでの花火の前後に演奏されたという記録が残っています。
 〈協奏曲〉はバロック時代ですので、ソロ協奏曲よりは合奏協奏曲が主体になっています。わが国で比較的聞く機会があるのは5つある合奏曲集でしょう。これらの協奏曲集には、作品番号(Op)が付いていて、〈6つの合奏協奏曲〉(Op-6)、〈12の合奏曲〉(Op-12)、〈オルガン協奏曲 第1集〉(Op-4)、〈オルガン協奏曲 第2集〉、〈オルガン協奏曲 第3集〉(Op-7)となっています。オルガン協奏曲集はそれぞれ6曲の協奏曲からなっています。これらの協奏曲はもともとオペラや、オラトリオ、カンタータの挿入曲、序曲、間奏曲として作曲されたもので、時にはメインのオラトリオなどより、これらの協奏曲を聴くのを楽しみにしていた聴衆もいたということです。作曲時期は若いころのものもありますが、合奏曲集は1730年代〜1740年代に固まっています。なお、アーノンクールによれば、ヘンデルの時代、合奏協奏曲を演奏する場合は、独奏楽器群(コンチェルティーノ)と合奏群(リピエーノ)が離れて配置されたと言っています。
 なお、バロック時代のオルガン協奏曲には2種類あって、普通我々が馴染んでいる協奏曲の独奏楽器としてオルガンが用いられているものの他に、オルガンだけで協奏曲風に作曲されたものがあります。上に揚げたヘンデルのものは前者のタイプで、バッハに何曲かあるのは後者のタイプです。
 〈室内楽曲〉に分類されているものではトリオ・ソナタが多く、他には今風でいうヴァイオリンソナタ、フルートソナタ等が少数あります。
 〈チェンバロ曲〉では、パルティータ、ソナタ、フーガ、組曲等数十曲ありますが、なかで我々に一番なじみの深い曲は、ハープシコード組曲第1巻に含まれている「調子のよい鍛冶屋」としてしられている「アリアと変奏」でしょう。

(Bass 百々 隆)

【参考文献】
  1. クラシック音楽作品名辞典 井上和男編著、1985年、三省堂
  2. バロックの社会と音楽(下) 今谷和徳著、1988年、(株)音楽の友社
  3. 「メサイア」ハンドブック 三ヶ尻正著、平成10年、(株)ショパン
  4. インターネットサイト
    http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Stage/6262/handel.html
    http://www-math.ias.tokushima-u.ac.jp/~ohbuchi/taste/


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